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2023年1月25日
乳がん診療最前線
乳がん診療最前線
文藝春秋に慶應大学ブレストセンターの林田哲先生が乳がんの最先端の診療について寄稿しておられましたのでご紹介します。参考になれば幸いです。

女性のがんでは最も多い乳がんは年間の新規患者数が97,000人以上にのぼり、国立がん研究センターの最新の統計によると早期乳がんのステージ 1では5年生存率は 99.8 %、遠隔転移したステージ4でも 38.7 % とかなり高い。この数字を底上げしているのが、乳がんの標準治療の質の高さです。質の高い標準にある乳がん治療ですが、近年幾つかの点で更に大きな進歩がありました。

*手術について
乳房にメスを入れることは女性にとって身体的・心理的に負荷の大きいものです。1980年代後半に乳房温存手術が注目されて以降、乳房を残す温存手術のニーズが高まりを見せてきました。ただ温存といっても実際は切除した部分が凹んでしまうなど課題がありました。しかしここ10年は、腫瘍を取り除きつつ、いかに見た目も綺麗に仕上げるかという根治性と整容性のバランスを取ることに力が入れられています。
また、かつては乳房・乳輪を含む皮膚ごと全ての乳房を切除していた乳房全摘術も、皮膚の表面に近い場所に腫瘍がなければ、乳頭・乳輪は残して、内部の乳腺組織だけをくり抜く手術が保険診療として可能になりました。その後、インプラントなどを挿入して形を整えますが、この乳房再建手術もすでに保険適用となっています。

*薬物療法で20年ぶりUPDATE!
近年の乳がんの治療成績向上には、薬物療法の進歩が大きく貢献しています。乳がんはその細胞の特徴によって「ルミナール」「HER 2」「トリプルネガティブ」など複数のタイプに分けられ、その特徴によってホルモン療法、分子標的薬、化学療法を使い分ける個別化医療がずいぶん前から実践されてきました。

近年は、そこへ新たな薬が次々と加わり、選択肢が広がりました。
ホルモン陽性・HER 2 陰性となる「ルミナール乳がん」に対し、分子標的薬「ベージニオ」の術後追加投与が 2022年1月に保険適用となりました。「ルミナール乳がん」の術後治療としては実に20年ぶりのアップデートになります。

また遺伝性乳がん(HBOC)の原因遺伝子「BRCA1/2」に遺伝子変異があり、HER 2陰性の患者さんには、分子標的薬「オラパリブ」が以前は手術不能または再発した方のみでしたが、2022年8月から再発リスクの高い方の術後薬物療法にも適応が拡大されました。

さらに新しい話題として「HER 2低発現乳がん」という従来はサブタイプとして分類されてこなかった新しい分類に対し、「エンハーツ」という新しい分子標的薬が走行することが証明され、現在適応拡大の申請中で、今後新たな治療の選択肢が増えることになるでしょう。

一方で、必要のない抗がん剤治療は、身体への負担軽減のため出来るだけ回避していこうというのも、近年の乳がん治療のトレンドです。
その際活用されるのが「オンコタイプ DX」検査で、がん細胞の遺伝子解析によって再発リスクを判断するものです。ルミナール型でリンパ節転移がないか、少ないかの患者さんが対象になります。手術後に抗がん剤を行うかどうか判断に迷う際に、活用されています。この検査は、2021年12月に一度保険の認可が下りたのですが、現在は保留となっています。現在は一定の条件を満たせば無償で提供されるようになっていますので、再発のリスクに迷う患者さんは、一度主治医に相談してみるといいかもしれません。

*乳がんのゲノム医療は発展途上
一方、ゲノム医療に関しては、残念ながら乳がんでは大きなメリットを享受できる状況にはなっていません。
遺伝子パネル検査は保険で行う場合は、もはや治療の選択肢がなくなった患者さんや原発不明がんなどに限られています。検査で効果が高い薬が見つかるケースは13%と低いのが現状でこれからの課題です。だた乳がんは患者さんの数も多く、比較的データが取りやすいため、治療法の開発や保険適応も進展が速いのです。冒頭で述べた通り、乳がんの標準治療は世界中の研究者と臨床医そして患者さんが作り上げた英知の結晶と言っていいほど質が高いのです。

*検診&標準治療がベストの選択
その標準治療の恩恵を享受するため何より大切なのが、早期発見です。
乳腺の密度が濃いうちは超音波検査の有用性が、50歳を過ぎ、乳腺が萎縮するとマンモグラフィーの有用性が高くなります。
検診の目安は、乳がんの家族歴がなくしこりなどの症状がなければ40歳を越えたら年1回マンモグラフィと超音波を受けるようにしましょう。
症状がある場合は、保険診療で乳腺専門医にすぐにかかってください。
家族歴がある場合は、35歳から年1回超音波検査を受けると良いでしょう。
家族や親族に複数の乳がんの方がいて遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の可能性が考えられる場合には25歳を過ぎたら乳腺専門医に相談してください。
乳がんと診断されたら出来るだけ早い段階で標準治療につながって頂き、根治、長生きを叶えていただけることを心から願っています。

<インチョーより>
乳がんは女性のがんの中では、罹患する人は最も多いのですが、治る確率もとても高い疾患です。
検診で要精密検査!となっても、まずはあわてずに、受診してください。案外がんのことは少ないものです。
検診で見つかるのは早期癌が圧倒的に多く、早期癌ならまず治癒します。
進行しても、最近の薬物療法の進歩で、治る人も多いです。
再発しても、治療を粘り強く続けていれば、5年、10年と自宅で生活できる方もいらっしゃいます。
手術・放射線・ホルモン療法・抗がん剤も少しずつ進歩し、治療効果が高く、身体への負担も少ない治療へと年々発展しています。
加えて、近年「遺伝子パネル検査」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる免疫療法も次々と登場してきています。
これから大きくオーダメイド治療やプレシジョン・メディシン(精密医療)と呼ばれるものへと発展していきます。
2035-40年ごろには、がんはほぼほぼ克服されるだろうと予想する専門家もいます。
どうか闘病中の方も希望を持って粘り強く治療に取り組んで頂きたいと思います。