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2017年1月30日
除菌後も検診を!〜広がるピロリ菌検査〜
除菌後も検診を!〜広がるピロリ菌検査〜
当院でも行なっていますが、未成年対象のピロリ菌検査や
成人を対象とした採血だけで簡単にできる胃がんのリスク検査を導入する自治体も増えています。
ピロリ菌除菌は胃がん撲滅につながるのか――
対策と現状をお話ししましょう。

「中学生本人の将来の胃がんを予防できる!」
2015年度は、対象者396人中、376人が受診し、
陽性率は9.3%!

兵庫県篠山市では、中学1年生を対象に、学校健診で2014年度からピロリ菌検査を導入した。
陽性だった場合は、市内の医療機関で、無料で精密検査が受けられ、
感染が確定すれば、高校3年生までの間、除菌治療の費用を市が助成する。

「成人までに確実に除菌すれば、胃がん発症のリスクが大きく下げられる」と
兵庫医大ささやま医療センター小児科・奥田真珠美教授は話している。

ピロリ菌は、1982年に発見され、その後の研究で胃炎や胃潰瘍などの消化器疾患に関係していることが判明した。
2014年には、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、
胃がんの80%はピロリ菌感染が原因で、除菌で胃がんを30〜40%減らせる」との報告書をまとめている。

国内のピロリ菌感染は、1960年代までの水道環境の悪さのためではないかといわれている。
このため、60歳代以上では感染率が高いが、上下水道が整備された70年代以降生まれの世代では低下する。
2000年代以降の生まれの感染率は、10%未満と推計されている。

愛知医科大学の菊地正悟・公衆衛生学教授らが、市民のピロリ菌感染状況を調査した結果では、
現代では、親から子への家庭内感染が大きな要因であることが分かった。
菊地教授は「今の中学生に対策をとって、次の子供世代への感染を防ぎたい」と主張する。

中学生を対象にピロリ菌検査を実施する自治体は、
北海道稚内市や大阪府高槻市、佐賀県など全国で増えている。

ピロリ菌除菌の保険適応は、2000年に胃潰瘍と十二指腸潰瘍を対象に始まり、
その後、段階を経て2013年には慢性胃炎にまで対象が広がった。

ピロリ菌感染が認められた場合、慢性胃炎はほぼ100%発症すると考えられており、
年間では、0.3%ほど胃がんの発がんリスクを有することが分かっている。

内視鏡検査で胃炎が確定された場合、保険での除菌が認められる。
日本人の胃がんの9割以上はピロリ菌が原因とされ、
「ピロリ菌は原則除菌すべきだ」と主張する医師も多い。

しかし、こうした流れに一石を投じる意見もある。
ピロリ菌感染者が、一生の間に胃がんを発症する確率は、1〜2%
除菌には、副作用もあり、成功した後も癌になる可能性はある」
と新潟県立がんセンター新潟病院の成沢林太郎臨床部長(消化器内科)は語る。

治療に使うのは、2種類の抗菌薬と胃酸を抑える薬の計3種。
主な副作用は、下痢・軟便、味覚障害、薬疹だ。
治療中止となる副作用は1.3%ほど報告されている。

国立がんセンターによると、
除菌後に胃がんを発症する割合は、年間で、1,000人に4〜5人だ。
成沢部長は「無症状者への除菌で胃がんが減少したという確定的なエビデンスは未だなく、
除菌後も検診は必要!」と話している。

<採血でリスク判明〜ABC検診〜>
「ピロリ菌は胃がんの原因」という知識とともに広がっているのが、
胃がんのリスク層別化検診(通称ABC検診)だ。
ピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮の程度を示す物質の値を組み合わせ、将来の胃がんリスクを判定し、
A〜Dの4群に分ける。エックス線検査や内視鏡に比べ、
採血だけでできる簡便さで、導入する自治体が増えている。

だが、ABC検診にも課題が指摘されている。
当初は、最もリスクの低いA群では、胃がんになる可能性は低く、その後の検診も必要ないとしていた。
しかし、実際にはA群にもリスクのある人が分類され、胃がんが発生。
このため、最近の改訂版では、グループ分けの基準となる数値を細分化し、
名称も「リスク層別化検査」に改めた。
また、リスクのあるB〜D群に内視鏡検査を受けてもらうことで胃がんの発見率は高くなった。
しかし、未だABC検診の有効性を示す、がん死亡率の減少効果を判断するには時期尚早だ。
だが、検診の普及を推進する「日本胃がん予知・診断・研究機構(NPO法人)」の三木一正理事長も
「胃がん検診として根拠は不十分だが、リスク層別化検査としてのエビデンス(確証)は認められている」と説明している。

成沢部長は「ピロリ菌感染者が減少するこれからの時代には、
未感染者は今と同じような検診を受ける意味はなくなる
「若い世代が中高年になるまでに、リスク層別化の検診を確率することが消化器専門医の使命!」と話している。

<ピロリ菌除菌治療後の問題>
除菌後の再感染率は、年1%以下と極めて少ない。
除菌により胃粘膜の炎症が改善し、胃がんのリスクが軽減するが、
未感染者と比較すると胃がんのリスクがはるかに高い。
このため、治療後も内視鏡検査のフォローは欠かせない。

ピロリ菌除菌により、胃粘膜萎縮及び腸上皮化生が改善するという報告も多いが、
除菌による胃がん抑制を示す報告でも、完全に除菌後胃がんを消失せしめることはできない。

除菌後の危険因子としては、
①除菌時高齢 ②男性 ③胃潰瘍既往例 ④高度萎縮 ⑤腸上皮化生(IM) が挙げられ、
特徴として、(1)前庭部 (2)陥凹型 (3)表層の非腫瘍様粘膜の出現 などが挙げられている。

除菌適応が拡大された現在、除菌後胃粘膜、除菌後胃がんの特性を踏まえた surveillance が必要である。

<ピロリ菌感染がない人が気をつけるべきこととは…>
今後の生活環境の変化と除菌治療の普及に伴い、ピロリ菌感染者の減少が予想されている。
上部消化管疾患を対象とした診療においては、パラダイムシフトが必要と考えられる。
胃炎、潰瘍、胃がん、胃リンパ腫の減少と、
ピロリ感染陰性者では、従来多く見られた胃下部(幽門部)の疾患より、食道や胃の上部、噴門領域の疾患に気をつける必要があり、
①逆流性食道炎(GRED) ② Barret 食道 ③ Barret 腺癌 ④特殊型胃がん ⑤好酸球性消化管疾患 などの増加が予想されている。

最近注目されている⑤の好酸球性疾患は、原因不明の消化管の痛みや下痢・嘔吐などの症状の一因になっているのではないかと考えられるようになっており、
現代病ともいうべきアレルギー疾患と考えられる知見が多く、食事内容との関連も指摘されている。
治療には、抗アレルギー製剤やステロイドなどの治療の有用性が示唆されている。

<インチョーより>
ピロリ菌治療全盛の時代ですが、昔から、人体には様々な細菌が寄生しており、腸内細菌や皮膚の常在菌などからも多くの恩恵も受けてきました。
除菌治療は、従来の胃がんを激減させるという素晴らしい知見もありますが、治療による長期観察は未だ途上で、
従来の人体の生態系を変え、新たなアレルギー疾患や負の側面もゼロではないことも考慮に入れる必要もあるだろうと考えています。

これからの最新の知見と”おばあちゃんの知恵”のような古来より人間が経験で培ってきた智慧のバランスを忘れず、
皆さまの”健康長寿”にお役に立てるよう勉強して参りますッ!!!
毎日多くのご来院、誠に感謝しております…

参考文献:
毎日新聞2017.1.22.付 医療福祉欄
木下芳一:Hericobacter pyrori 感染陰性時代の消化管疾患. 日本内科学会雑誌 106: 7-9, 2017.
村上和成:Hericobacter pylori 除菌治療の現場と除菌治療後の諸問題. 日本内科学会雑誌 106: 16-21, 2017.