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2016年12月20日
ケトン食でなぜガンが消えるのか?
ケトン食でなぜガンが消えるのか?
最近「ケトン食ががんを消す」(古川健司著,光文社新書,2016)という本を読みました。
一般向けの書籍ですが、記されている理論は専門書並みです。

従来の体験談や経験談からくる食事療法とは一線を画し、
医科学的なデータや理論を重視した栄養学的アプローチが特徴です。
食事療法も進化を遂げていると感じましたので、紹介します。
がん闘病の参考になりますれば幸いです。

<免疫栄養ケトン食>
臨床栄養学に基づいた「がん治療に特化した栄養療法」で、
この古川医師が主張するのは糖質制限が戦略です。
昨今ブームになった糖質制限食と類似しています。

しかし、あくまで「癌治療に特化した」食事療法であり、
ダイエットや健康志向の延長線上にあるものではないと強調しています。

ガンの主な栄養は、ブドウ糖。
正常細胞よりも3−8倍ものブドウ糖を利用して増殖しています。
一方、正常細胞は、ブドウ糖の供給が途絶えても、緊急用のサルベージ回路として、
皮下脂肪から緊急用の糖を利用しないケトン体回路を回します。

正常細胞は、緊急用のケトン体をエネルギー源として生き残らせ、
糖質しか利用できないガン細胞を「兵糧攻め」にしようという戦法です。

また、従来の「玄米菜食」や「ゲルソン療法」主義者などに見られるように
西洋医学のガン3大療法を真っ向から否定するものではなく、
現代西洋医学を支持する治療法というスタンスを取っており、
主治医との関係に気を使っている患者さんや我々医療関係者にとっても、取り組みやすい方法といえるかも知れません。

この食事療法を考案した古川健司氏は元外科医で、赴任先で、NST(栄養サポートチーム)のリーダーを任されたことがきっかけとなったことから始まります。
私もそうですが、外科医という立場は、ガン患者さんを初期の診断から手術、術後管理、術後の経過観察、再発時の治療、緩和ケア、そして看取りと
最初から最後まで一貫して寄り添う、いわば患者さんの生死のカギを握る最終責任的な立場に置かれております。

また、術前の患者さんの不安の訴えから、術後のトラブル、抗がん剤投与の副作用や、体力・免疫力低下など、
それこそ数え切れないほどのおびただしい経験をさせられてきており、
外科医は、内科医以上に苦渋を舐めていることも多く、問題意識や患者さんへの思いはとても強いものがあります。
著者の古川医師もこのような痛恨の経験が、栄養学を徹底研究するようになった一因と書かれています。

そして、今のがん治療の現場ではどういう治療・手術また、どの薬を使うかということばかりに意識が向けられ
治療の土台をなす「栄養」という最も求められる要素が、治療の枠組みから「すっぽりと抜け落ちてしまっている」と警鐘を鳴らしているのです。

医学の父・ヒポクラテスは、食と治療の関連において、

「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」
「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」

との言葉を残しています。

ちなみに私は「神が治し、医者が儲ける」という諺も好きです。

古川医師が臨床研究として倫理委員会に申請した研究デザインの対象は、
ステージⅣ(大腸がん・乳がん)、いわゆる現代医学では治癒の見込めない末期に近い9人です。
ここに筆者の挑戦と覚悟が感じられます。いわゆる、いまふうにいうと「9人の侍」です。

この「9人の侍」が示した結果は、
病勢がコントロールできて根治手術に至った完全寛解(CR) 3例
部分奏功(PR) 3例
進行制御 1例
増悪による死亡 2例
奏効率 67%
病勢コントロール率 78%
本には、画像は掲載されていませんが、
転移巣の縮小・消失などの経過が正確に記載されています。

他にも、
<ケトン食は化学療法・放射線治療の効果を高める>特に脳腫瘍には、その有効性が指摘。
<総ケトン体指数が一定以上の数字になるとガンが消える?!>
<栄養状態が悪いと、手術も抗がん剤治療もうまくいかない>
など興味深い内容も書かれていました。

また、今話題のEPA、 亜麻仁油、MCTオイル
玉葱やニンニク、ビタミンC・E、フコイダン。
免疫栄養ケトン食の具体的な献立。
水素水が化学療法の副作用予防に有用なこと。
ジョコビッチのグルテンフリー・ダイエット、断食、睡眠。
筋トレ!(膵がん患者さんが本気でアームレスリング大会で優勝を目指していることも勇気づけられます)の有用性。
など、患者さんにとって身近な内容も書かれていました。

<免疫栄養ケトン食>は決して夢のような治療法ではありませんが、
しっかりと地に足のついた「がん治療の有意な支持療法」になりつつあることを示したデータだと思います。
今後の研究と普及に向けての出帆が、今始まったと感じさせます。
参考になれば幸いです。

参考文献:
古川健司(2016)『ケトン食ががんを消す』光文社新書.