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2016年1月12日
がん治療法を巡る論争
2015年11月17日毎日新聞「オピニオン・記者の目」〜生活報道部 三輪晴美 記者 より抜粋

がんの治療に関する情報が溢れている。なかには、最新の医学とはかけ離れた治療法を進めるもの多い。私は乳がんを患い、当事者の視点も含めて暮らしナビ面で昨年夏から「癌stageⅣを生きる」、「がん社会はどこへ」の連載取材に携わってきた。
現代医学の恩恵を受けている者として、日本人の2人に1人が癌にかかるとされる今、患者が安心して治療を受けられる社会を実現させたい。そのためにも、誤った情報発信は断じて許されない。

「放置のすすめ」に上がる反論の声
近年注目を集めるのが元慶応大学部講師、近藤誠氏の著書だ。近藤氏は「がんは放置すべし」などと、現在のがん医療の根幹を否定する。2012年、文化的業績に対して贈られる「菊池寛賞」を受賞、同年出版の「医者に殺されない47の心得」は100万部を突破した。

しかし、現場の医師からは、「本を読んでがんを放置した結果、病を悪化させる患者がいる」「救える命も救えなくなる」などの声が上がり、今年、近藤氏の主張に意義を唱える本が相次ぎ出版された。

私は2008年末、進行が進行度が最も高い「ステージ4」の乳がんと診断された。腫瘍8センチ以上と異様な大きさで、リンパ節転移多数、さらに骨転移は広範囲で胸膜転移も疑われた。寝返りも打てず、医師は「頭の骨も溶けかけている」と指摘。手術不能で、抗がん剤と、がんの増殖などに関わる特定の分子のみを攻撃する分子標的薬の一つ「ハーセプチン」による治療が始まった。

初回の投薬で、がんの進行の指標となる腫瘍マーカーの高値は半減し、1年後に職場復帰。その頃には画像上、胸とリンパ節から腫瘍が消えた。以後、骨に腫瘍は残るが、以前と同じ生活を続けている。

そんな私が、近藤氏の著書の「ハーセプチンは認可を取り消されるべきだ」という一説に仰天したのはいうまでもない。ハーセプチンは、転移増殖しやすいタイプの患者に有効で、乳がん治療の成績を飛躍的に向上させたとされる。

先日、近藤氏に対して取材して話を聞いた。私の症例を話したが、近藤氏は「分子標的薬も効かない」という。「医師と製薬会社と厚生労働省が利権を守る世界があり、治験(新薬承認のための臨床試験)のデータはことごとく改ざんされている。治験の論文の筆者に製薬会社の社員が名を連ねること自体がおかしい」。さらに「抗がん剤は毒でしかない」と強調した。

確かに、抗がん剤は健康な細胞をも攻撃するため、副作用がある。「過剰な投与が命を縮める」との主張では、多くの医師も近藤氏に同意する。
だからといって、近藤氏の全否定は放置できない。

抗がん剤が「効く」とは、「血液がん」などを除けば「治癒」ではなく、腫瘍が一時、縮小することを意味する。
効果には個人差が大きく、投与の都度、リスク(危険)とベネフィット(利益)を天秤にかけ、患者の価値観、人生観と照らし合わせて治療を進めるべきだとされる。実際、「副作用はあっても、それに見合う効果が実感できるので治療を続ける」という患者は多い。まれに「副作用死」はあっても、治療が進んだ今は抗がん剤で恩恵を受ける患者が多いのではないか。

そう問うと、近藤氏は「中には延命する人もいるだろう。しかし自分が知る多くは、転移もないのに再発予防で抗がん剤治療始めたら副作用で亡くなったといった話ばかりだ」と語気を強めた。

溢れる情報賢く見極めて
以前、評論家の立花隆さんを取材した際の言葉を思い出す。
「医師は自らが診た患者さんの症例しか知らない。だからこそ、世界の医師が症例を持ち寄り、がん撲滅のために英知を結集するのが科学のあり方ではないか。

抗がん剤については、一般の人の間でも「負のイメージ」が強い。
医療不信もあいまって、「医師は不都合な真実を隠している」とばかりにネットでもデマが流れ続ける。
「製薬会社の政治力は否定できない。でも、そこまでわかりやすい情報操作は不可能で、透明性も進んでいる」と話すのは、医師で医療問題を研究する東京大医科学研究所の上昌広特任教授だ。但し「抗がん剤が効かない人や、適正な医療が受けられない人は、近藤氏の本に救いを見い出す」とも指摘する。「抗がん剤を正しく評価するには、国民一人一人が賢くならなければならなければ」とも。

最近は、遺伝子診断による「個別化医療」も進み、不必要が抗がん剤治療は避けられるようにもなってきた。医学は一歩一歩、進んでいる。
がんになっても人生は一度きりだ。溢れかえる情報に惑わされず、信頼できる医師のもと、自らの命と悔いなく向き合っていく。その一助になる情報今後も発信していきたい。

〜院長よりサバイバーのみなさまへ〜
この記事を読んだとき、情報のプロである新聞記者が、自らの体験をもって記事を書いており、心に迫るものがありました。

医学は、日々進歩発展していますが、完璧ではありません。
Webの時代にあって、先見的なさまざま情報(例えば免疫療法など)が溢れ、診療ガイドラインも出されますが、現時点での知見であり、未来永劫変わることなき、絶対的なものでもありません。

患者さんや、患者さんを思うご家族にとっては、さまざまな情報を広く集めた上で、何が自分にあっているのかを賢く見極める「医療リテラシー」がますます必要です。

私たち専門医は、近藤氏の意見にも「謙虚」に耳を傾けながら、朝令暮改(私の好きな言葉です)、思い当たる過ちは、素直に認め、反省し訂正・改良して、医学医療の発展に貢献すべきと考えます。(個人的には、近藤氏の意見の「放置して医者も不要」なら、自らの存在意義も否定することになってまうと思いまんがなぁ〜だれがそんな人についていくねんなぁ〜)

そして、がんと懸命に闘う患者さんの指令塔となり、サポート役、あるときは、手となり足となって、患者さんの信頼に耐えうる医師でありたいと決意して、さらに勉強していきます。

この論争の最終結論は、、自分の身体に責任を持った、勇気ある一人ひとりのサバイバーに委ねたいと思います。