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2015年10月13日
乳がん検診の賢こ〜い受け方(がん検診で要精検となってしまった方へ②)
乳がん検診の賢こ〜い受け方(がん検診で要精検となってしまった方へ②)
今回は、乳がん検診について取り上げます。
40年前と比べると、日本人の乳がん罹患率は約3倍に増えています。
原因は、食生活の変化と運動不足、他に、肥満や初潮年齢が早く初産年齢が遅くなり、授児減少により女性ホルモンの暴露を受けている期間が長くなったことなどが関係しています。予防するには食生活と運動が何より重要となります。


予防効果はどのくらいあるの?
では、食生活や運動を定期的にやることで、実際には20%くらい罹患率が下がると推計されています。
乳がん(マンモグラフィー)検診を受けることで死亡率は20%減。
適切で標準的な乳癌の治療を受けることで、30%下がると推計されています。


乳がん検診は、いつ頃から受ければいいの?
乳がんの発見年齢は、30歳後半から徐々に増え、40歳台後半と60歳前後に罹患率のピークがあります。
これらの年代でご心配な方は、受けるようになさると安心でしょう。
マンモグラフィーと超音波併用をお勧めいたします。

検診で発見される乳がんの8割は、Stage0、Stage Ⅰ の早期乳がんで凡そ90%以上が治っています。
いかに検診が大切かがお分かり頂けるかとおもいます。
肺や肝臓に転移したStage Ⅳでも、薬物療法の進歩により、25%もの人が10年後も生存しておられます。
決して悲観したり諦めたりせず、粘り強く治療をお続けください。


早期発見と過剰診断の問題
一方で、乳がん検診の普及に伴い、検診のデメリットが最近注目されてきました。
過剰診断の問題です。これからの時代には、この過剰診断に対する情報提供が欠かせません。
専門医には、信頼あるデータに基づく、受診者へ解りやすい説明が求められております。
Annals of Internal Medicine誌 2012.4.3.付 ノルウェーからの報告で対策型市民マンモグラフィー検診についての論文です。

約10年にわたる追跡で、検診を勧められた2500人のうち6−10人が過剰診断、20人が治療を要する乳癌の診断、1人の乳癌による死亡を防げたと推定し、浸潤性乳癌の15−25%が治療の不必要な過剰診断の可能性があったのではと推定しています。

別の論文では、マンモグラフィーによる乳がん検診の効果について、「19%乳がん死亡が減る」というのが全体の結果でしたが、検診を行う群と行わない群で、どれくらい乳がんで死亡しているかというと、検診を行う群では0・36%、行わない群では0・43%でした。
この結果を乳がんで死亡しなかった人でみると、検診を行う群は99・64%、行わない群は99・57%。つまり、13年という年月では、検診を受けても受けなくても、ほとんどの人は乳がんで死んでいないことが分かります。
現在65歳の人で考えると、検診を受けても受けなくても、ほとんどが78歳まで乳がんでは死なないということです。
乳がん検診は、質の高い早期発見すると同時に、生命予後に関与しないような乳がんを見つけてしまう「過剰診断」の問題をどう考えるかが、これからの時代には必ず求められると考えています。

がんの診断は、ある一時点の細胞や組織の状態で診断します。
見つかったがんが、その後何年でどのように進行していくかは、実はよく分かっていません。
あまりに早期に発見されたがんの場合、進行するどころか、消えてなくなってしまうかもしれません。
進行がんになるには、1年以内かもしれないし、30年かかるかもしれない。進行するのに30年かかるような早期がんの場合、70歳の人では進行がんになる前に、別の理由で死んでしまう可能性があります。
がんの診断自体は正しくても、この場合の診断も過剰診断になるということです。
乳がん検診が普及して20年が経過し、早期乳癌の発見は増加しましたが、進行乳がんは減っていないということを指摘した論文もあります。

アメリカ内科学会誌の報告によると、乳がん検診でがんの疑いとされた人のうち、結果的にがんでなかった偽陽性の人は年齢が若いほど多い傾向にありました。
40代の女性1000人が検診を受けた場合、約10%の98人が偽陽性でした。同様に1000人が検診を受けたとき、60代で79人、80代で64人が偽陽性でした。
偽陽性と診断された一部の人は、乳房に針を刺し細胞を採取して調べる病理組織診断をした方は、検診受診者1000人のうち病理検査を行ったのは、40代が9人( ≒1%)、60代が12人( ≒1%)、80代が12人( ≒1%)でした。

また、過剰診断については2012年、インパクトのある論文が発表されました。
乳がん検診で診断された乳がん患者の30%が本来は治療が不要なもので、過剰診断の可能性があるというものです。
欧米におけるマンモグラフィーによる乳がん検診は、1980年代から徐々に普及し、90年代後半には60%の受診率を達成しています。
検診で早期乳がんが発見されれば、治療により進行がんになることなく治癒します。つまり、検診で早期乳がんがたくさんみつかれば、結果的に進行がんの数は大幅に減るはずなのに、この論文では、検診導入後に早期乳がんの発見が導入前の2・5倍に増えているのに、減るはずの進行がんはほとんど減っていないというのです。
高齢者の増加などで乳がん死亡が増えている可能性もありますが、この論文の著者らはそうした増加があったとしても、進行がんが減らないことの理由としては不十分ではないかと論じています。過剰診断の問題を重くみたスイスの医療委員会は今年、対策型のマンモグラフィーによる乳がん検診の廃止勧告までしています。



検診で要精検となってしまった方には、このようなcontravertialな情報を正確にお伝えし、
落ち着いた冷静な対応ができるように、我々専門家はサポートする必要があると思っております。
当院では、受診者の立場に立ち、必ずしも専門知識がなくとも、皆さまが正確な判断ができるよう信頼ある情報を提供してまいります。
いつも沢山の方に受診して頂きましてありがとうございます。


参考文献:安藤二郎 乳がんの診断と治療(前編).げんきとちぎNo.26.2015.
     名郷直樹 家庭医が教える病気のはなし.2015.