よしざわクリニック|乳腺科 内科 外科 消化器科 肛門科 整形外科|胃がん検診 大腸がん検診 乳がん検診|栃木県 宇都宮市

よしざわクリニック

〒321-0104 栃木県宇都宮市台新田1-2-25
TEL:028-658-6111
0120-4430-92(よしざわ9リ2ック)

お知らせ
RSS
2015年10月9日
がん検診で要精検となってしまった方へ ーがんの早期発見と過剰診断・スマートな検診の受け方ー
がんの早期発見と過剰診断・スマートな検診の受け方
今回はがんの過剰診断と賢い検診の受け方についてお話しします。
参考にしていただけましたら幸いです。


「がんは早期発見が第1」「検診で早く見つければ見つけるほどいい」と従来から当たり前のように言われていました。
医療従事者でそう思っている人も多いようです。
しかし、がん検診を専門とする者の立場からすると、
これはそんなに単純な問題ではありません。
早期発見には実はさまざまなデメリットもあるのです。

分かりやすいのはまず、予算・財政の問題です。
個人が自己負担で行う任意型のがん検診は別ですが、
症状のない人を対象に早期発見のために行う対策型のがん検診は、
国や自治体の厳しい財政状況の中、多額の費用を使ってようやく1人のがん死亡が予防できるというような状況は、社会全体としてはデメリットとなってしまいます。

もう一つの問題は、本当はがんではないのに、がんと診断される偽陽性(本当はがんでなかった)の問題です。
対策型のがん検診は、見落としを少なくするために、疑わしい人をなるべく広く拾い上げるという戦略を取ります。
その結果、本当はがんではないのに、がんの疑いで精密検査を受ける人が多くなるのを避けることができません。

がん検診で「精密検査が必要」と言われた人は、それだけでも不安な気持ちになります。さらに医療保険を使い、自己負担もしたうえで、苦痛を伴う検査を受けなくてはならず、これはがん検診の最も大きな避け難いデメリットといえるでしょう。
もちろん、精密検査で問題ないということで得られる安心というのもあるわけですが、安心ばかりが強調され、不安の問題がないがしろにされている面もあります。

これからのがん検診には、早期発見のメリットとともに、デメリットー過剰診断という負の側面ーについても受診者が判断できるような正確な情報を提供することが求められる時代なのです。

避けられない過剰診断の問題

例えば、がん検診によって見つかったごく早期のがんが、進行がんとなって症状を出すまでに10年、死に至るまで15年としましょう。
例えば、75歳の男性の平均余命は10年余りですが、これは、100人のうち10年で半分の50人が亡くなることを意味しています。
つまり、75歳でがん検診を受けても100人のうち50人はがんで症状が出るまでに死んでしまうわけです。
この50人にとって、がん検診はどういう意味があるのでしょう。
がん検診で検査を受けた分だけ余計な医療を受け、がんの不安に苦しむことが増えただけと言えないでしょうか?
がん検診を受けない人の方が余計な検査も受けず、がんの不安もなく、がんの治療を受けることもなく、より良い10年が過ごせる可能性が高いのです。

あまりに早期のがんは見逃した方がいい場合が案外多いこともあるのです。

これは一般にはあまり知られていませんが、がん検診を考えるうえで極めて重要なことです。

がん検診は、できるだけがんを早期で見つけることを目標にしています。
しかし、この早期発見という考えにこそ、過剰診断の問題があるといえるでしょう。
あまりに早期のがんは見逃した方がいい場合も案外多いのかもしれません。
とくに高齢者の場合、そのあたりを十分に考慮し判断する必要があります。

がん検診で要精検となってしまった場合「検査方法の正確性には限界がある」「偽陰性と偽陽性の問題がある」ことを頭の片隅に置いた上で、精密検査を受診してもらえればと思います。
精密検査でがんが見つからなくとも、詳しく調べてもらって却ってよかった、もしがんが見つかってしまっても、早期発見でよかった、と自分の気持ちを不安にならないよう方向に向けていく姿勢も大切と思います。
そして、治療の段階で、手術や抗がん剤を勧められた場合でも、治療するメリットとデメリットを考え、時には治療しない選択肢もありうるのだ、ということもあります。


また、がんはいったん出現すると、決してなくならず、進行したがんへと一方向性に進むと思われているかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
小さながんは自らの自然治癒力でなくなってしまう可能性があります。
例えば、ミクロのレベルでは、遺伝子レベルの変異でもたらされるがん細胞を修復するメカニズムが明らかにされています。
そこから類推すれば、ごく小さながんの場合、なくなってしまう可能性もないとは言えないのです。
あまりに早期に発見されたがんは、小児の神経芽細胞腫のように自然治癒してしまうものがあることを否定できません。
より精度の高い最新の検査法で、より早期にがんを見つけることは、早く見つければ見つけるほど、勝手に治ってしまうような可逆的な小さながんに余計な医療を提供しているだけというデメリットを大きくします。

早期発見のメリットだけでなく、過剰診断のようなデメリットの可能性についても十分に吟味する必要があるのです。

当院では、長年のがん診療の経験と最近の文献に基づき、皆さまの判断のお手伝いやアドバイスをできればと考えています。
いつも数多くの方に受診していただきまして、ありがとうございます。


参考文献: 名郷直樹(EBM(科学的根拠に基づく医療)のオピニオンドクター)「家庭医が教える病気のはなし」