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2018年1月5日
がん〜ステージ4でも諦めないで…
がん〜ステージ4でも諦めないで…
 医療の進歩により、最も進行度が高い「ステージ4」のがんでも、より多くの患者が「がんと共存」できる時代になってきた。
完治に至る道はまだ遠くても、治療を経て長く生きる人の存在は「希望」につながる。

<5度の脳転移経験>
 乳がんの手術後、間もなく肺に転移。
さらに5度の脳転移を繰り返しながら、治療で完全寛解し、すでに5年が経過した人がいる
兵庫県芦屋市在住の主婦、田村博子さん(62)だ。

 田村さんに乳がんが分かったのは2007年。
近親者に乳がん経験者が多く、10カ月前に検診を受けたばかりだった。
診断した医師は「こんなに早く進行する乳がんは見たことがない」と言った。
手術を受けた時点で、田村さんのがんは「ステージ2」。
しかし術後7カ月で肺への転移が分かる。「もう未来はない」。
大学生だった娘と夫(63)との3人家族。
「余計な心配をかけたくなくて、しばらく言えなかった」という。
2週間後、ようやく2人に事実を告げた時、夫は肩を落として静かに泣いた。

 田村さんの乳がんは「トリプルネガティブ」というタイプで、再発転移すれば抗がん剤しか治療の手立てがない。
しかし、術前の抗がん剤治療はあまり効果がなく、また術後に再発予防の治療をしたにもかかわらず、すぐに再発した。
執刀した兵庫医科大乳腺・内分泌外科部長の三好康雄医師からも「分かっていると思うけど、もう治らない」と告げられた。
田村さんは三好医師に「治らない治療なんていらない!」と悔しさをぶつけた。

<患者は治りたいのだ!>
 一度は「がん治療のリングから降りよう」と思ったものの、何もせずに死にゆく自分を見守る家族の気持ちを考えると、無治療は選べなかった。
「一番効果の高そうな薬を試して、それがだめなら即、緩和ケアを」と田村さんは心に決め、
懇意のクリニックの医師の薦めで、抗がん剤の専門家である腫瘍内科医の意見を聞くことにした。
そこで出会ったのが、現在は明和病院(兵庫県西宮市)の腫瘍内科部長を務める園田隆医師だった。
「電話で病状を話すと、明日すぐに家族と来るようにと言われて…」
園田医師は目の前でいくつかの治療計画を示した。
そのひとつに田村さんの心が動き、相談を受けた三好医師も「この治療は効くかもしれない」と、背中を押した。

 「田村さんに『治りたい』と言われて、実はびっくりした」と三好医師は振り返る。患者は、
たとえステージ4でも治癒を願うはずだ。
しかし当時も今も、「再発すれば治らない」が医師の常識で、患者も本音がなかなか言えない。
三好医師は、医者の意識と患者の気持ちとの間に、いかに距離があるかを思い知らされたという。

 さらに「田村さんのその後の経過を見て、『こういう人もいる』ことを教えられました」。
ここ数年で良い薬が増え、特に乳がんのあるタイプで「完全奏効」する例は増えている
田村さんの症例をきっかけに「ステージ4でも、治るチャンスがある人には治すための治療を」と、三好医師の意識は大きく変わった。

 田村さんが選んだ治療は、ある薬剤を使い、抗がん剤が効かなくなることを阻止するものだった。
「ガイドラインにはない治療だから、大学病院などではできない」と解説する園田医師は、もともと血液内科の医師だった。
「白血病は抗がん剤で治癒が見込めるのに、乳がんをはじめ固形がんは、なぜ治らないのか…」
園田医師は臨床の経験を踏まえ、ガイドラインを基本にしながらも「工夫」を加えた治療を続けてきた。
「特に乳がんは若い患者が多い。治る可能性がある人をみすみす死なせるわけにはいかない!」
園田医師の言葉に熱がこもる。
 
<コツコツ続ける>
 田村さんが受けた治療は、同じ乳がんでも全ての人に有効なわけではない。
いざ治療しても奏効するとは限らない。
しかしステージ4のがん患者の命を、より長く延ばし、根治を目指すことが園田医師の仕事だ。
難治の膵臓(すいぞう)がんに対しても、同じ治療で手応えを感じている。
エビデンス(科学的な根拠)を作って、より多くの患者を救いたいという思いもあるが、臨床試験を行うにはいくつもの壁がある。
今は「職人のごとく、コツコツと自分の仕事を続けるだけ」と園田医師は話す。

 田村さんは肺転移の寛解後、今度は脳転移を5度も繰り返す。
それでもその都度、三好医師、園田医師、さらに脳外科医のサポートを経て完全寛解に至った。
「医師とは当初、言い争うことも多かった」と田村さんは笑う。
田村さんは長くパタンナー(衣服の型紙を作る仕事)として働いていた。
「医師とは得意分野が違うだけ。人間としては対等だと思っています」

 田村さんの話を知った患者からの相談も絶えない。「
自分の経験は話せても、特定の治療を勧めることはできない」と田村さん。
まずは患者自身が目の前の医師の説明をきちんと理解すること。
そのためには自ら勉強する必要がある。
それもないまま、別の治療法を求めてふらふらするのは決して良いことではない。

 信頼できると思った医師ととことん付き合い、悪い結果も受け入れる覚悟を持つこと
「患者には患者の仁義があります」

 田村さんが完全寛解に至った理由を証明することはできないが、三好医師は「やはり園田医師の治療が効いたのだと思う」と話す。
がんに特効薬がない限り、再発転移患者の治療は常に手探りだ。
「個々の患者に合わせた個別化医療によって、マイナスの治療を選ぶ可能性もある。
だからこそ、患者自身の意思を尊重しながら、共に病に向かうことが必要」と三好医師は話す。

<インちょーより>
 数は少ないですが、こういうケースが今後増えていくということを、
専門家であるドクター自身も知って、患者さんへ紹介し励ますことが、
どれほど患者さんや家族への希望になることか――ということを数多く経験してきました。
参考になれば幸いです。

参考文献:
三輪晴美:毎日新聞 平成29年12月3日 東京朝刊.