〒321-0104 栃木県宇都宮市台新田1-2-25 TEL:028-658-6111 0120-4430-92(よしざわ9リ2ック)
オンライン資格確認を導入しています。 感染対策として栃木県がんセンターとの連携のもと院内トリアージを実施しています。 皆様のご理解とご協力をお願い致します。 ・栃木県立がんセンター乳腺外科 ・独協医大乳腺センター ・自治医大・乳腺科 との乳がん地域連携を実施しております。
自戒の意味も込めまして、シェア(掲載)させていただきます。
一人の患者さんに、多くの種類の薬が同時に処方されている状況を多剤処方・ポリファーマシーと呼びます。
種類が増えると副作用が出やすく、いろんな病気を抱えて多剤処方になりがちな高齢者で特に問題視されています。
私たちの研究で、常用薬が6種類を越えると副作用が出やすくなる傾向が確認できました。
他にも5種類以上で転倒しやすくなる、消化器への影響で低栄養状態になるリスクが高まると報告されています。
薬の相互作用によるものでしょう。
そのため、あくまで目安ですが、5種類程度に抑えることを提案しています。
<ただ減らせばいいのか…>
ただ処方する薬の種類を減らせばいい、という単純な問題ではありません。
高血圧に糖尿病、心臓にも持病を抱える患者さんの場合、10種類の薬が適正だ、ということもあります。
要は、それぞれの患者さんに合わせ、適切な処方を追求することです。
抱える病気が多い人ほど、多剤処方への可能性は高まります。
高齢者に薬の副作用が出ないようにするには、効果と副作用のリスクを秤にかけ、服用する薬に優先順位をつける必要があります。
認知機能に問題があり、高血圧で糖尿病でもある患者さんがいたとすれば、認知機能を下げないことを優先し、他の病気の服薬基準を少し緩める、というようにです。
多剤処方で副作用が出るメキャニズムは解明されていませんが、きっかけになりがちな薬剤はあります。
日本老年医学会は2015年に医師、薬剤師、看護師向けに
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」をまとめ、
「特に慎重な投与をする薬物」と「開始を考慮するべき薬物」を載せました。
例えば、うつ、吐き気、精神疾患、不整脈など広い範囲で使われている「抗コリン系薬剤」は副作用で認知機能を低下させる恐れがあります。
複数の病院に通う患者の処方の全体を知らないと、重複投与につながります。
<多剤処方の解消に向けて>
多剤処方の解消に向けた一案として、かかりつけ医に薬の情報を集約してもらい、処方を一元化することが考えられます。
患者さんの病気をよく知るかかりつけ医なら専門医の知見を参考にしつつ、最適な薬剤処方を選びやすい。
しかし、日本ではかかりつけ医の制度が完全には整っておらず、役割が明確ではありません。
患者は専門分野の診療科を自由に受診でき、専門医は目の前の患者さんの病状に合わせ、最適と思われる薬をそれぞれに処方します。
それが循環器と神経内科と泌尿器科と…という具合に重なり、医師同士の情報の連携がないと、
結果として多剤処方になってしまいます。
<患者さんの側にも要因>
患者さんの側にも要因があります。
薬を出して欲しいという気持ちが非常に強いのです。
なかには、「運動療法ばかりで薬をくれないから、出してくれる医者に変えた」という患者さんもいます。
国民皆保険の中で、医療機関を通じて比較的安価に薬を入手できることが「お薬信仰」を強める要因になっているのかもしれません。
<薬剤師の役割も重要>
薬剤師の役割も重要です。処方箋やお薬手帳を見て、医師に飲み合わせの状態などを問い合わせて欲しい。
個人情報の壁もあって薬局には診療情報も検査値も届かず、薬剤師が医師の処方に疑義を挟むのが難しいのは理解できますが、
ガイドラインの「特に慎重な投与を要する薬物」の重複を知らせるだけでも意味があると思います。
多剤処方は、薬の飲み残しの問題も引き起こします。
残薬の額は全国で年間に数百億円とも数千億円とも言われ、医療財政を圧迫します。
処方の最適化を進めれば結果として薬剤費も減り、今の医療体制の持続や質の向上も期待できるのです。
〜東京大学(加齢医学)教授・秋下雅弘先生のご意見〜
<総合診療医のご意見>
病院の救急科に勤めていた頃、薬の副作用が原因で救急搬送される患者さんをたくさん目の当たりにしてきました。
多くの場合が、多剤処方された患者さんでした。
診療の現場を変えないと同じことが繰り返されると思い、今は解決策を模索しながら、日々の地域医療に取り組んでいます。
多剤処方の改善には、医療職と患者さんが、よく対話しながら取り組むことが大切です。
医師は重複処方や良くない飲み合わせを防ぐために、患者さんに「全ての」内服薬を確認することが重要です。
特にお年寄りの場合、複数の専門医を受診する方も珍しくない。
個々の疾患には最善の処方でも、体全体で足し算すると、おかしな多剤処方になっているということが起き得ます。
医師は特定の臓器や疾患だけを見て、必要性を判断するのではなく、
「その人の全体像を見て」「本当に必要な薬か」を考えて処方すべきです。
また「いつもの薬だけください」と言われるがままに、漫然と処方し続けるのも問題です。
処方が多施設にまたがるなど複雑な場合は、医師一人が解決するのはなかなか困難で、他の医療職との連携も大変重要になります。
ただ、重複処方を調整しようと処方医に電話しても、同業だけに余計な干渉と思われたのか、話も聞いてもらえないこともありました(^/^ ;;;
<薬剤師の役割に期待>
そこで薬のプロとしての役割に期待したいのが薬剤師さんです(^V^)。
私が薬剤師さんにお願いしているのが、患者や服薬に関して薬剤師が得た情報を医師に送る「トレーシングレポート」の積極活用です。
例えば腎臓の悪い患者さんに、整形外科が腎機能にリスクのある鎮痛剤を処方してきたら、内科と整形外科の両方に注意を促すことができます。
緊急時に医師に電話する「疑義照会」と違い、緊急性のない情報でも、FAXで気軽に送れます。
患者さんも医師には言いづらくても薬剤師さんには言えることもあるはず。
ぜひ薬のプロとして、一歩踏み込んだ対応で助けてもらいたいです。
<患者さんは…>
患者さんは、自分自身の服薬内容を、どこかで一元管理できるように意識しましょう。
理想は「かかりつけ」の医院や薬局に全体状況を知っておいてもらうことですが、
現実には複数に通う場合もある。
そこで活用を呼びかけているのが「お薬手帳」です。
強調したいのは、お薬手帳は「1冊だけ」持つから価値がある、ということ。
複数の薬局を使う場合も、1冊に全ての服用薬が載っていればこそ、重複処方が防げます。
採血データなども挟み込んでおけば、その手帳を携帯するだけで、万が一、出先で倒れたとしても、かかった医療機関で情報共有ができます。
「たかが捻挫で整形外科に行っただけなのに、なぜ腎臓が悪いことまで知られないといけないの」など、
医師や薬剤師に全ての病気を知られることに抵抗がある方もいるかもしれません。
でも、健康を守るために提示してほしい。
また、薬を万能視してむやみに欲しがらず、多すぎると思ったら、遠慮なく尋ねてみて下さい。
今は薬をたくさん処方したからといって、医療機関の収益が増えるということはなく、
念のため、いろいろ出しているだけのことも多いのです。
こうした取り組みは「薬は悪!」という医療否定とは違います。
単に薬剤費を減らせばいいというわけでもない。
処方薬や薬剤費の減少は、それ自体が目的ではなく、
処方を最適化するなかで、結果的に実現されるべきです。
この話題を機に、患者と医療職、医療職同士の対話がより活発となり、
医療全体がより良いものになればと思います。
〜やわらぎクリニック・北和也先生〜