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2017年10月2日
<多すぎる薬〜ポリファーマシー>
<多すぎる薬〜ポリファーマシー>
朝日新聞の記事からです。
自戒の意味も込めまして、シェア(掲載)させていただきます。

一人の患者さんに、多くの種類の薬が同時に処方されている状況を多剤処方・ポリファーマシーと呼びます。
種類が増えると副作用が出やすく、いろんな病気を抱えて多剤処方になりがちな高齢者で特に問題視されています。

私たちの研究で、常用薬が6種類を越えると副作用が出やすくなる傾向が確認できました。
他にも5種類以上で転倒しやすくなる、消化器への影響で低栄養状態になるリスクが高まると報告されています。
薬の相互作用によるものでしょう。
そのため、あくまで目安ですが、5種類程度に抑えることを提案しています。

<ただ減らせばいいのか…>
ただ処方する薬の種類を減らせばいい、という単純な問題ではありません。
高血圧に糖尿病、心臓にも持病を抱える患者さんの場合、10種類の薬が適正だ、ということもあります。
要は、それぞれの患者さんに合わせ、適切な処方を追求することです。

抱える病気が多い人ほど、多剤処方への可能性は高まります。
高齢者に薬の副作用が出ないようにするには、効果と副作用のリスクを秤にかけ、服用する薬に優先順位をつける必要があります。
認知機能に問題があり、高血圧で糖尿病でもある患者さんがいたとすれば、認知機能を下げないことを優先し、他の病気の服薬基準を少し緩める、というようにです。

多剤処方で副作用が出るメキャニズムは解明されていませんが、きっかけになりがちな薬剤はあります。
日本老年医学会は2015年に医師、薬剤師、看護師向けに
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」をまとめ、
「特に慎重な投与をする薬物」と「開始を考慮するべき薬物」を載せました。
例えば、うつ、吐き気、精神疾患、不整脈など広い範囲で使われている「抗コリン系薬剤」は副作用で認知機能を低下させる恐れがあります。
複数の病院に通う患者の処方の全体を知らないと、重複投与につながります。

<多剤処方の解消に向けて>
多剤処方の解消に向けた一案として、かかりつけ医に薬の情報を集約してもらい、処方を一元化することが考えられます。
患者さんの病気をよく知るかかりつけ医なら専門医の知見を参考にしつつ、最適な薬剤処方を選びやすい。
しかし、日本ではかかりつけ医の制度が完全には整っておらず、役割が明確ではありません。
患者は専門分野の診療科を自由に受診でき、専門医は目の前の患者さんの病状に合わせ、最適と思われる薬をそれぞれに処方します。
それが循環器と神経内科と泌尿器科と…という具合に重なり、医師同士の情報の連携がないと、
結果として多剤処方になってしまいます。

<患者さんの側にも要因>
患者さんの側にも要因があります。
薬を出して欲しいという気持ちが非常に強いのです。
なかには、「運動療法ばかりで薬をくれないから、出してくれる医者に変えた」という患者さんもいます。

国民皆保険の中で、医療機関を通じて比較的安価に薬を入手できることが「お薬信仰」を強める要因になっているのかもしれません。

<薬剤師の役割も重要>
薬剤師の役割も重要です。処方箋やお薬手帳を見て、医師に飲み合わせの状態などを問い合わせて欲しい。
個人情報の壁もあって薬局には診療情報も検査値も届かず、薬剤師が医師の処方に疑義を挟むのが難しいのは理解できますが、
ガイドラインの「特に慎重な投与を要する薬物」の重複を知らせるだけでも意味があると思います。

多剤処方は、薬の飲み残しの問題も引き起こします。
残薬の額は全国で年間に数百億円とも数千億円とも言われ、医療財政を圧迫します。
処方の最適化を進めれば結果として薬剤費も減り、今の医療体制の持続や質の向上も期待できるのです。
〜東京大学(加齢医学)教授・秋下雅弘先生のご意見〜

<総合診療医のご意見>
病院の救急科に勤めていた頃、薬の副作用が原因で救急搬送される患者さんをたくさん目の当たりにしてきました。
多くの場合が、多剤処方された患者さんでした。
診療の現場を変えないと同じことが繰り返されると思い、今は解決策を模索しながら、日々の地域医療に取り組んでいます。

多剤処方の改善には、医療職と患者さんが、よく対話しながら取り組むことが大切です。

医師は重複処方や良くない飲み合わせを防ぐために、患者さんに「全ての」内服薬を確認することが重要です。
特にお年寄りの場合、複数の専門医を受診する方も珍しくない。

個々の疾患には最善の処方でも、体全体で足し算すると、おかしな多剤処方になっているということが起き得ます。

医師は特定の臓器や疾患だけを見て、必要性を判断するのではなく、
「その人の全体像を見て」「本当に必要な薬か」を考えて処方すべきです。


また「いつもの薬だけください」と言われるがままに、漫然と処方し続けるのも問題です。
処方が多施設にまたがるなど複雑な場合は、医師一人が解決するのはなかなか困難で、他の医療職との連携も大変重要になります。
ただ、重複処方を調整しようと処方医に電話しても、同業だけに余計な干渉と思われたのか、話も聞いてもらえないこともありました(^/^ ;;;

<薬剤師の役割に期待>
そこで薬のプロとしての役割に期待したいのが薬剤師さんです(^V^)。
私が薬剤師さんにお願いしているのが、患者や服薬に関して薬剤師が得た情報を医師に送る「トレーシングレポート」の積極活用です。
例えば腎臓の悪い患者さんに、整形外科が腎機能にリスクのある鎮痛剤を処方してきたら、内科と整形外科の両方に注意を促すことができます。
緊急時に医師に電話する「疑義照会」と違い、緊急性のない情報でも、FAXで気軽に送れます。
患者さんも医師には言いづらくても薬剤師さんには言えることもあるはず。
ぜひ薬のプロとして、一歩踏み込んだ対応で助けてもらいたいです。

<患者さんは…>
患者さんは、自分自身の服薬内容を、どこかで一元管理できるように意識しましょう。
理想は「かかりつけ」の医院や薬局に全体状況を知っておいてもらうことですが、
現実には複数に通う場合もある。
そこで活用を呼びかけているのが「お薬手帳」です。

強調したいのは、お薬手帳は「1冊だけ」持つから価値がある、ということ。
複数の薬局を使う場合も、1冊に全ての服用薬が載っていればこそ、重複処方が防げます。
採血データなども挟み込んでおけば、その手帳を携帯するだけで、万が一、出先で倒れたとしても、かかった医療機関で情報共有ができます。

「たかが捻挫で整形外科に行っただけなのに、なぜ腎臓が悪いことまで知られないといけないの」など、
医師や薬剤師に全ての病気を知られることに抵抗がある方もいるかもしれません。
でも、健康を守るために提示してほしい。

また、薬を万能視してむやみに欲しがらず、多すぎると思ったら、遠慮なく尋ねてみて下さい。
今は薬をたくさん処方したからといって、医療機関の収益が増えるということはなく、
念のため、いろいろ出しているだけのことも多い
のです。

こうした取り組みは「薬は悪!」という医療否定とは違います。
単に薬剤費を減らせばいいというわけでもない。
処方薬や薬剤費の減少は、それ自体が目的ではなく、
処方を最適化するなかで、結果的に実現されるべきです。
この話題を機に、患者と医療職、医療職同士の対話がより活発となり、
医療全体がより良いものになればと思います。
〜やわらぎクリニック・北和也先生〜

<日野原重明先生のお考えは…>
検診のメリットは、血糖やコレステロール、血圧などの異常の早期発見にあります。
ところが、ここに問題がひとつあります。
それは、20歳の健康者の平均を尺度にして、60、70、80歳の人のデータを読もうとすることです。
これでは検診を受けた高齢者は、みんな病人になってしまいます。

高齢者の正常値は、いってみれば、“まあ、これですむ”という認容値でいいわけで、
多少血圧が高くても日常生活がきちっとできれば我慢しようという数値でよいのです。

たとえば、日本高血圧学会では正常血圧は135mmHg未満、最低血圧は85mmHg未満としていますが、
高齢者の場合は、最低血圧が90mmHgを越えないかぎり、150mmHg未満の最高血圧はいっこうに差し支えありません。
私は150mmHgを越えないと高齢者には降圧剤を使いません。

高齢者は朝・昼・晩で血圧が変動しますから、下がりすぎてはかえって良くないことがあります。
そのため、高齢者では24時間の血圧の変動値を見ること、その上で降圧剤を処方するのが無難です。

治療する医師というのは、ややもすると数値で満足してしまう傾向にありますが、なにも高齢者が100mを15秒で走る必要はありません。
(貧血や血沈・糖尿病のデータも同じで)現在の判断基準では、高齢者はみんな病気と診断され、糖分などを控えなさいということになる。
これでは高齢者から食べる楽しみを奪うことになってしまいます。

このように年代相応の認容値を設定することが、私は望ましいのではないかと思います。
若い人の正常値のような一括した評価ではなく、ここの高齢者の生活状況に応じ、
また心身の負担の大小により、評価がなされなければならないと思います。

高齢者は、臓器の働きが、若い人の理想値の半分、50点もあればその人らしい、健やかな生活ができるものです。
それをやみくもに従来の正常値で判断し、高齢者を病人として扱い、薬物療法を行ったり、運動や生活制限を強いることはいかがなものでしょうか。


この結果、たいていの高齢者は生活する、旅行する、働くことについてかなりの制約を受けることになります。
厳しい生活指導を受けるとなると、高齢者の生活は益々侘しくなる一方です。
旅行や仕事の制限を強く受けたりすれば、生きる楽しみ、喜び、生きがいすら奪ってしまう恐れもあります。

検査は、検査のためにするものではありません。
私たちの生活を支障なく送るためにするものなのです。
これからの社会では、この認容値の視点を取り入れていかなければなりません。

<インチョーより>
日野原先生はまた…
医師によっては検査結果を過大評価し、いたずらに病人づくりをする者がいるという問題もあります。

私たちが主体性なく、いわれるがままにしていますと、
生涯の間、不必要な注射を打たれ、飲まなくてもよい薬まで飲まされ続ける恐れさえ出てきます。


どんな病気でも、診察を誰にしてもらったかということが一番大切なことになります。
ただ大学病院で診察してもらったとか、大病院で診てもらったというのではなしに、
「あなたを本当に診たのは誰か」ということが問題になってくるのです。」

一つの陶器の価値を判定するとき、誰が鑑定したかによってその値段がつくのと同様に、
診断をした人によって、その信頼性があるかないかが決まるわけですから、このことは極めて重大
です。

人間ドックで検査を受ける場合でも、その施設が良心的にやっていなければ全然意味がありません。

私たちは医療のかかり方自体も勉強しなければならない
といえるでしょう。」

と、警鐘を鳴らしていらっしゃいます。

薬が多過ぎると、副作用のリスクが高まるほか、国や健康保険の薬剤費にも響きます。
高齢化が進み、患者さんの3〜5割が、5種類以上の薬を処方されているのでは…とも言われています。
必要な薬は使いつつ、ポリファーマシーの弊害を改善するための、
「医師としての良識・良心・智慧」が今、求められています。

当院でもあそこなら大丈夫と安心して受診され、
受診する方・ご家族の方の不安を来さないよう「減薬」に向けた取り組みを続けて参ります。
どうぞ遠慮なく、ご相談頂けましたら幸いです。

参考文献:朝日新聞 2017(平成29)年9月23日 オピニオン&フォーラム「ニッポンの宿題」
     日野原重明「幾つになっても、今日がいちばん新しい日」(PHP,2017.)