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2017年1月20日
がん検診〜最新事情〜
がん検診〜最新事情〜
<健康な人を傷つけない、病人にしない>
がん征圧全国大会(9月8日,9日 京都市)から、
国立がん研究センター 津金昌一郎先生の講演からです。
今後のがん検診を考える上でとても大切な視点と思いますので掲載しておきます。
少し長いですが、興味がある方は、読んでみて頂ければ幸いです。

<がん健診の最大の不利益は、過剰診断>
まず「がん検診には利益と不利益がある」ということをきちんと理解することはとても大事です。
利益は、がんによる死亡を回避できること。
これは実際の結果が、真陽性(検査結果;陽性,疾患あり)の場合です。
患者のQOLを向上させ、医療費を削減し、真陰性(検査結果;陰性,疾患なし)の人が安心を得る、ということが利益のひとつです。

しかし、検診には不利益もあります。
偽陽性者への不必要な検査・不安や偽陰性者への実際の治療が遅れること、検査、精密検査による侵襲や合併症などが代表的な不利益です。

今、大きな問題になっているのは過剰診断で、過剰診断をいかに回避するかはとても重要です。
がん検診の望ましい姿は、利益を最大にすることです。
死亡率減少効果が相対的・絶対的に大きいこと、1人の死亡を回避するために必要な検診者数が少ないこと、そして、なるべく回避されるQOL低下が大きいこと、医療費削減効果が大きいこと、陰性反応的中率を上げることがとても重要です。

そして不利益を最小にするには、偽陽性者・偽陰性者を少なくし、検診自体やその後の精密検査、手術などの合併症を少なくすること、過剰診断を少なくすることが重要です。

<死亡率減少効果の高い検診を>
がん検診最大の利益は、がんによる死亡率減少効果を最大化するということだと思います。
そのためには、なるべく生存率の低いがんをターゲットにし、死亡率減少効果の高い検診を行うことや、死亡率の高いがん、リスクの高い対象者に絞り込んで検診を行うことなどが重要です。
がんの種類によって異なりますが、乳がんの5年生存率は今や90%を超える時代になっていて、乳がん検診による死亡率減少効果がなかなか出にくい時代になっています。
ただし、乳がんに関しては、ステージ毎に生存率が落ちてくるので早期発見は重要です。
しかし、前立腺がんのようにステージIからⅢまでの5年生存率が100%で、ステージⅣまで全て合わせても5年生存率96.9%というがんに関しては、早期発見はそれほど重要ではないことが容易に想像できます。
本当は、膵がんのように5年生存率が7%と極めて低くなるようながんを何とかしなければなりません。

どのくらい死亡率減少効果があるかは、最終的に、ランダム化比較試験(多少過小評価する傾向があるが)で行われますが、マンモグラフィーに関しては、死亡率が15%低下。
しかし最近では、死亡率減少効果はないという試験もあります。

大腸ガンの FOBT(便潜血検査)は死亡率が、16%低下。
重度喫煙者に対するヘリカルCTは、死亡率が20%低下するとされております。
胃のX線検査に関しては観察研究(多少過大評価する傾向あり)で、症例対照研究では50%。コホート研究では40%死亡率が低下するとされています。

以上から考えると、がん検診はおそらく死亡率を30%くらい低下させるというのが、一般的・平均的な見方です。

<年齢、遺伝子、喫煙などリスクの層別化した検診を>
がんで死亡する年齢について、わかりやすく説明します。
肺がんで死亡する確率は、男:約2.4%、女:0.8% 75歳までに各部位のがんで死亡する確率は約0.2〜0.3%。
毎年検診をするとして、死亡率を30%低下させる肺がん検診を75歳まで受け続けた場合、肺がんで死亡する確率3%が2%に下がるに過ぎません。
つまり、100人が受診して1人が救命されるので、計算上は99人は、結果的に見れば「無駄な検診を受けている」ということになってしまいます。
さらに、肺がん以外のがんに関しては、死亡率:0.3%→0.2% に減少するに過ぎません。
これは、検診を1,000人受診してようやく1人が救命されるため、999人は無駄な検診をずっと受け続けているということになってしまいます。

ですから、リスクが高い人を対象にして検診を行うことが効率的です。
無駄に終わる検診の不利益というのはないか、あっても小さくしなければなりません。
そのために、リスクを層別化する必要があります。
年齢や遺伝子、生活習慣、バイオマーカーなどでリスクをきちんと同定して、それに応じた検診を提供するというのが、将来的な考え方になる、と思います。

もちろん、リスク層別化をすると精度管理や受診率などの面で難しい問題があることは重々承知していますが、あえて提言させていただきます。

年齢によるリスク層別に関して、アメリカの現状の概要を紹介します。
米国予防サービス評価部会(U.S.Preventive Services Task Force)の検診推奨レベルです。
基本的に推奨されている検診は、年齢の下限と上限があるということです。
例えば、子宮頸がんは65歳、大腸がんは75歳、大腸がん検診は85歳を上限にして推奨しないというように、年齢によって異なります。
例えば、子宮頸がん検診では、適切な検診を受けてきて、高リスクでない65歳以上の検診は推奨しない、若い人は過剰診断の恐れがあるので推奨しないということになっています。
日本では、推奨年齢の下限はありますが、上限はないのが現状です。

<遺伝性のがん>
費用対効果の高い検診を行うために…
遺伝子変異・多形との関連が明らかながんもあります。
例えば、乳がんに関しては、BRCA1という浸透度が高い遺伝子を持っている人は、そうではない人に比べて何十倍もリスクが高い。
そういう高リスクの高い人に対して頻回な検診を行うとか、予防的に乳房を切除してしまうという対応もできます。
大腸や甲状腺も乳房と同様に、予防的に切除することができるようになりました。
しかし、肺がんに関してわかっている遺伝リスクは1.2倍〜2倍という程度です。
リスクが1.2倍にということは、75歳までに肺がんになる確率は遺伝子変異がある場合、1%→1.2%になる程度ということになります。
喫煙者の場合は5%、そのまま1.2倍にすれば、6%になるわけです。しかし、肺がんのリスクが1.2倍になっても、全てのがんのリスクには差がほとんどありません。
こういう遺伝子リスクよりは、タバコをやめたほうが圧倒的に予防になるということがいえます。

喫煙習慣別の肺がんの死亡率は、非喫煙者と喫煙者では全然違います。
喫煙者の肺がん死亡リスクは非喫煙者の5倍ぐらいと言われています。(中略)
アメリカの例で言えば、肺がんで死亡する確率が低いグループから高いグループで5つのリスクに分けて肺CT検診のシュミレーションをしています。
どのグループにおいても検診を受けることによって、死亡率が約20%減少します。1万人検診して救える肺がんの死亡数は、0.2〜12人。
1人の肺がん死亡を防ぐために必要な検診者数は、リスクが最も低いところは5,200人、低いところでは161人ということになります。
このデータから分かることは、リスクの高いグループの方が、検診の効果がより効率的であるということです。
さらに、1人の肺がん死亡を防ぐために必要な偽陽性者(過剰診断)数も1,648人から65人まで減少させることができます。

リスクが高い人に受診を絞るということは、検診を有効にするためには、極めて重要ということです。

<胃がんリスク(ABC)検診>
ピロリ菌に感染していなく萎縮胃炎がないA群の場合、10年間で胃がんになる確率は男性でも1%もありませんので、A群は極めて胃がんリスクが低いということが分かります。
A軍の女性についてはさらに低く、70歳の女性が10年で胃がんになる確率は0.17%しかいないということです (但しA群は除菌歴がないこと!)。

これをどうやって読み解くか。
リスク層別によって、A群の人に「あなたは今後10年間、99%以上の確率で胃がんになりません!」ということもできます。
絶対に胃がんにならないことを保証するものではありませんので「胃がん検診を受けていても、99%以上の確率で不必要になるので、必ずしも検診を受ける必要はありません。但し、何か胃の症状があれば病院を受診し、必要に応じて検査を受けてください」というような使い方ができるのではないかと思います。

リスクが高いB、C、D群の人には「あなたは今後10年間で、1〜数%の確率で胃がんになると推定されます。胃癌の予防に努めるとともに、定期的に胃がん検診を受けることをお勧めします」ということもできます。
さらに、B、C群に関しては「ピロリ菌の除菌について医師と相談してください」とメッセージすることもできます。

<推奨されない検診を…提供しない、受けない>
がん検診の最大の不利益は過剰診断です。この過剰診断をいかに最小化するかということが重要です。
そのために「推奨されない検診を提供しない、受けない」ことと「がんの個別化診断」がとても大事です。

過剰診断はなぜ起こるのか。
まず「進行の速いがんは、早期発見が困難で、検診にはなじまない」ということがあります。
普通のがんは、検査で発見する時期と症状をもたらすまでの間で検診して、死亡や症状が出ることを防ぎます。
しかし、がんの中には非常に遅いものとか潜在的ながんや、場合によっては縮小するようながんもあります。
進行の遅胃がんは検査で発見しても、結局、そのがんは最終的には症状をもたらさず、死亡にも結びつかないので結果的に過剰診断になってしまいます。

また、高感度の検査をして非増殖性のがんまで見つけてしまうと、これも過剰診断になってしまいます。
高齢者で余命が短くなると、普通のがんでも“過剰診断”になってしまうのです。
80歳で見つけたがんで症状が出たり、死亡したりする確率よりも、他の病気で死亡する確率が増えてしまうので、“過剰診断”になってしまうのです。

<死亡や転移に結びつかないがんまで発見するリスク>
少し極端な例かもしれませんが、アメリカのデータを紹介します。
病理解剖で見ると60歳以上の男性で、前立腺がんは30〜70%、40〜70歳の女性で乳がんは7〜39%、50〜70歳の男女で甲状腺は36〜100%見つかるというデータがあります。
しかし、生涯の死亡・転移リスクに関しては、アメリカの場合は、前立腺で4%、乳がんで4%、甲状腺癌に至っては0.1%.
見つけたがんが最終的に生涯で死亡や転移に結びつかない確率というのは、甲状腺癌の場合、99%!前立腺がんの場合も80%を超えます。
日本の生涯の死亡確率はもっと低いです。実際、日本の剖検データでも、80歳以上の男性の60%に前立腺がんが見つかっています。
最終的に生涯で死亡や転移に結びつかない前立腺がんまで見つけていいのか、という問題があります。

過剰診断を防ぐということは、今世界的な議論になっています。
これは、BMJという有名な医学雑誌の記事です。過剰診断をいかに防ぐかということが頻繁に議論されていて
"Preventing over diagnosis: How to stop harming the healthy."
つまり、健康な人をいかに傷つけないかという、病人にしないかということがということが大事であるということが議論され、特に乳がん、肺がん、甲状腺がんが過剰診断の典型例として挙げられています。

<過剰診断が生まれる背景>
ひとつは、かつてないほど小さな以上を見つける技術革新。
それから商業的・職業的な利権、利権団体による疾患定義の拡大とガイドラインの作成です。
これは「善意」で一生懸命疾患定義を拡大しているということです。
それから見逃し(過小診断)は罰せられますが、過剰診断の場合は、過剰診断された人も過剰診断した医師も両方とも問題にはなりません。
検査や治療を助長する保険制度もあります。この中で最も大きなものは「より多い方がより良い」という文化的な思い込みです。
よりサービスを提供された方がいい、早期診断は良いことで、それによって余計なリスクを生じることはない、という思い込みを変えなければなりません。

<低リスクなものには「がん」という呼び名を使わない>
最近は、米国のNCI (国立がん研究所)でも、どうしたら過剰診断や過剰治療を減らせるか―が議論になっています。
特に、甲状腺がん、前立腺がん、肺がん、乳がん、メラノーマについて
「がんの過剰診断は普通にある」ということを前提として理解しようと合意されています。
それから、付随する診断が低リスクである場合、なるべく「がん」という名前をつけないで、
IDLE(indolent lesion of epithelial orgin:緩徐に進行する上皮性病変)という別の名前をつけようということになっています。

例えば、乳がんのDCIS(非浸潤性乳がん)や、上皮内癌に関しても、がんという名前をつけない方がいいのではないかということで、様々なことが研究されています。

それから、がんへの進展リスクが低いか不明の病変を登録して観察し、本当に大丈夫なのかどうかをちゃんと見ること、
重要でない病変を検出しないような検診法により、がんの過剰診断を減らすということ、
IDLEの概念を取り入れた新たながんの予防法を確立することも米国NCIで開催された過剰診断・過剰治療に関する会議で合意されています。

<がん検診の価値を高めるための、将来の方向性>
アメリカ内科学会が2015年に出していたものですが、今までの皆さんの議論と逆行する話になっています。

将来の方向性として、検診の間隔を空けていくということです。
「検診の間隔を空けていく」ためには、減らしても利益の低下が「小さく」不利益・コストの低下が「より大きい」というエビデンスが必要です。

それから陰性がしばらく続いたら「もう検診はやめる」ということも重要です。
当然、陰性が続く人は検診継続により受ける不利益・コストと比較して、健康障害を受ける確立が小さい。

基本的にアメリカなどでは余命10年未満のものに対しては、検診をしないことになっています。
さらに、余命15年、20年での打ち切りも考えたほうがいいのではないかといわれています。

より高齢での検診の開始については、例えばアメリカでは、乳がん検診の対象年齢を引き上げて50歳代から推奨することが議論になっています。

リスク層別の検診は、より簡単に同定可能な高リスク群に対してリスクを上げること。
それから検査陽性の閾値、PSAなどの閾値をあげて、検診の感度を低くしようという議論もあります。
こういったことが今後がん検診の価値を高めるための将来の方向性として重要ではないかと考えられています。

<インチョ〜より>
「早期発見で良かったね」とつい人情的には言ってしまいがちですが、
「早期発見・検診受診というのは利益ばかりで悪いものは何もない」という
“早期発見至上主義”という思い込みを考え直さなければいけない時期に来ているのだと思います。
早期発見・検診受診によって起こり得る不利益もあります。
早期発見・検診受診には、死亡率減少効果があるのはもちろん前提ですが、
過剰診断や、偽陽性(実際にはがんでないものまでがんの疑いがあるとすること)のような不利益があることを、
検診従事者や受診者も認識しておく必要があるのかも知れません。
がん検診が皆さまの信頼を裏切ることなく、
がん検診の価値を高めるためにも
日々学んで診療に生かして参ります!

参考文献:
対がん協会報 644号増刊, 平成28(2016)年12月